
名鉄電車三河八橋駅からほど近いところにこの話のもとになった平安時代の文学「伊勢物語」の九段落にある在原業平の東下りに出てくる「かきつばたの池」がある。当時、都で禁断の恋が明るみに出てしまい都を離れていく在原業平。旅の途中でこの地で休息を入れた時に「か・き・つ・ば・た」の五文字を歌の頭句にして旅の心を詠んだのが有名な「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」妻を京都に残しお伴数人とともに左遷されていく寂しさ。花を見て思わず落涙したであろう。
時は移り、全国の名所を訪ねて歩いている旅の僧が「八橋」の地を訪れると里の女が八橋でかつて在原業平が歌を詠んだことをなどを語り聞かせる。彼女は八橋に咲く「杜若」の花の精。懐かしい業平の思い出を語ったあと、自分の庵へ僧を招き入れる。そして後半部分で二条后高子の唐衣を身に着け、頭には業平がつけた冠を載せ優雅に舞を舞う。業平の思いを杜若の花がくみ取り、高子の衣裳と業平の冠を花の精が身に着けることで二人の思いが杜若の精の中で一つになり成就するような印象を受ける。杜若も平安時代随一のプレイボーイの業平に恋をしてしまったのであろう。花の身なれば叶わぬ思い。そして業平も叶わぬ思いを秘めてこの地に来て歌を詠む。業平は歌舞の菩薩の化身で、彼に詠われた杜若の花までもが草木でありながら成仏してしまう。それぞれの思いが成就して、夜が明けるころ花の精も失せていく。
一度訪ねてみたいと思っている場所である。